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日記

平成28年10月13日の日本昔話

てんぐ飛び

むかし、山形の旭岳の麓の小さな村は、山に囲まれて陽あたりが悪く作物の育ちも悪かった。村人は懸命に働いたが暮らしは楽ではなかった。
そこである時、働き者の爺様が、陽のあたる漆岳に新しく畑を作ることにした。
爺様は掛け声をかけ一心に畑を作ったが、やがてその掛け声は「あびらうんけんそわか」に変わっておった。爺様がその掛け声をかけると、体が浮きあがり畑が一つ耕されるのじゃった。
爺様は喜んで漆岳の天辺まで次々に畑を作っていった。
その頃天狗山では、天狗が空を飛べなくなって困っておった。
するとそこに爺様のあの掛け声が聞こえてきた。
天狗は「阿毘羅吽欠蘇婆訶(あびらうんけんそわか)」と呪文を唱えて、“てんぐ飛び”の術で空を飛ぶのじゃが、その呪文を他の者に使われると空を飛べなくなってしまうのじゃった。
天狗は怒って風を起こし、爺様を天狗山に吹き寄せて「呪文を使うのを止めろ!」と言った。
爺様は「あの掛け声を止めたら畑が耕せなくなる。絶対に止めん!」と言い返す。二人は三日三晩言い合ったそうな。
やがて腹が減った爺様が気絶してしまうと、天狗は呪文を唱え大きな鉢に一杯の細長い食べ物を取りだした。
爺様がそれを食べると、とても美味しくお腹も一杯になるものじゃった。
「こんな風に皆が腹一杯食えるように、村の暮らしを良くしたいんじゃ。」と爺様がぽつりと言うと、天狗は “蕎麦の実”を取り出して畑に植えるように勧めた。
蕎麦は荒れ地でも良く育ち、さっき爺様が食べたのもこの蕎麦だったのじゃ。
爺様は喜んで、二度とてんぐ飛びの呪文は使わないと約束した。そうして爺様は天狗の風に乗って漆岳に帰って行った。
帰る途中、爺様はうっかり転んで蕎麦の実を撒き散らしてしもうたが、それでも、夏が来る頃には漆岳の麓から天辺まで白い蕎麦の花が咲いたそうな。
こうして蕎麦のおかげで村人はひもじい思いをすることがなくなり、村の暮らしは陽があたるように明るくなったそうじゃ。
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